その業務オンラインでできませんか?
~様々な業務に特化したクラウドサービスが続々と登場

(IT・ビジネスライター:柳谷智宣)

総務省や経済産業省を中心に政府はDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しています。DXとは、企業が既存のビジネスから脱却し、新しいデジタル技術を活用することで、新たな価値を生み出していくということです。

DXを実現するには、経営戦略や組織、人材、新規サービスの創出と言った課題がありますが、中でも重要なのがITシステムの活用です。これまで、企業が負担しているIT関連費用の80%がシステムの維持管理費用でした。自社にサーバーを置き、独自開発したシステムを改修しながら使い続けてきたためです。この状態では、戦略的なIT投資ができません。そこで注目されているのがクラウドサービスです。

クラウドサービスでは、これまで自社で持っていたサーバーとシステムを、インターネットを介して提供します。そのため、インターネット回線さえあれば利用できるので、社内にサーバーを置く必要がなく、保守体制を社内に用意しなくてもよいのがメリットです。設置場所や機器を選ばずに済むし、安定運用が可能になります。会社とは別の場所にあるので、バックアップとしても利用できるなど、様々な負担が軽減されるというメリットがあるのです。

加えて、素早く導入でき、簡単にスケールでき、セキュリティはサービスの提供企業にまかせられます。不要になれば解約すればいいだけです。さらに、自社でイチから用意するのと比べると、圧倒的にコストが安く済みます。

総務省が発表している「令和元年通信利用動向調査」によると、クラウドサービスを全社的に利用しているのは36.1%、一部の事業所または部門で利用しているのは28.6%と64.7%もの企業が導入しています。サービスの効果も、非常に効果があったもしくはある程度効果があったと回答したのはなんと85.5%と満足度はとても高くなっています。

では、なぜ今でも半数近くの企業がクラウドサービスを導入していないのでしょうか。2018年の調査になりますが、第1位は「必要がない」、第2位が「情報漏洩などセキュリティに不安がある」、第3位はクラウドの導入に伴う既存システムの改修コストが大きい」となっています。

第3位は、旧態依然としたシステムを使い続けることのコストや人件費、機会損失と比べてみましょう。業務の棚卸しをして回収コストを抑えたり、そもそも既存システムごとクラウドに移行するという選択肢もあります。第2位は、ほとんどのクラウドサービスが最重要項目として取り組んでいる課題です。それこそ、自分の所だけで取り組むよりセキュアな環境を構築しているサービスの方が多いでしょう。

問題は、第1位の「必要がない」です。きちんと検討した結果ならよいのですが、実際は、現状問題なく動いているから必要がない、と思い込んでいるケースが多いのではないでしょうか。人は現状維持バイアス、つまり現状を維持できるならできるだけ維持したいという心理があります。新しい変化に直面するくらいなら、今の不便の方が心地よいと感じるものなのです。システムを利用する現場の社員が不満を抱えていても、経営陣が売り上げなどを見て必要ない、と判断していることもあります。クラウドサービスのことがよくわからず、躊躇していることもあるでしょう。

この課題を解決するなら、まずどんなクラウドサービスがあるのかを知ることが鍵になります。現在、新型コロナウイルスの影響でテレワークが拡大しており、クラウドサービスが急速に広がっています。様々な業務に適したクラウドサービスが登場し、多数の企業に利用されているのです。

様々な業務をクラウドで実現するサービスが登場している

定番業務の課題とその課題を解決するクラウドサービスの特徴を一通り押さえておきましょう。今までは当たり前だった業務が、クラウド化できる可能性に気がつくかも知れません。

まず、新型コロナウイルスの影響でテレワークが増えたことで顕在化した問題が、承認フローです。従来は紙に印刷した稟議書を上司に渡し、はんこを押してもらって承認を得ていました。しかし、テレワークでは無理です。そのため、自粛期間中にはんこを押すためだけに出社する人がテレビに取り上げられ、物議を醸しました。

この課題を解決するのがワークフローサービスです。稟議書をインターネットで上司に送り、ソフトウェア上で承認してもらうのです。いつ誰が承認したのかが記録されるので、はんこと同様、もしくはそれ以上の信頼性があります。

紙の稟議書だと紛失したり再利用が難しいという課題がありますが、デジタル化すれば紛失のリスクはなくなり、検索も簡単になります。どこかの上司で止まっていると、紙の場合はまず稟議書がどこにあるのか探す作業が発生しますが、デジタル化すればステータスを見るだけで状況を把握できます。承認の催促を自動で行ってくれるサービスもあります。

モバイルでも利用できるので、上司が出張中でも出先で承認できます。従来よりも格段に承認フローにかかる時間を短縮できるようになるのです。

同じような課題を抱えるのが契約書です。紙で印刷して製本して郵送し、捺印して送り返してもらい、印紙を貼ってキャビネットに保管するという負荷の高い作業が必要になります。

こちらも電子契約サービスを利用することで、ペーパーレス化できます。メールやクラウドストレージで相手に送り、ソフトウェア上で署名して送り返してもらえばいいのです。

もっとも気になるのが、法的有効性だと思います。実際、電子契約サービスを導入することでもっとも業務が効率化するのは法務部門なのですが、もっとも導入を反対するのも法務部門だそうです。しかし、電子署名法により、本人が署名したことと改ざんされていないことがはっきりしていれば、電子署名が成立するとされています。

今では多数の大企業が導入しており、金融機関のローンの契約書にさえ電子契約が導入されるケースもあります。メリットは絶大です。課題すべてが解決されるのです。

紙に印刷したり製本する必要がなく、郵送代も不要です。印紙代も不要で、保管場所も不要です。相手が紛失した場合に再発行するのも手間がかかりません。従来であれば何週間もかかった契約書締結が、数時間~数日で済むようになります。ステータスの確認もできるので、催促も簡単です。

大多数の社員が煩雑に感じているのが、経費精算です。領収書を保管し、精算書を印刷して、承認してもらい、経理に回すのはとても面倒です。Excelに入力しているところもありますが、項目と金額、日付を入力するのは手間がかかりますし、ミスも発生します。

クラウドの経費精算サービスを導入すれば、まず入力が簡単になります。社員は領収書をスマホで撮影するだけで、各項目が自動入力されます。乗換検索アプリの結果から交通費を入力したり、交通系ICカードを読み込み、履歴から申請データを作成することもできます。

管理側のメリットとしては、規定違反の申請を自動チェックしたり、会計ソフト用に勘定科目を指定して仕訳した情報を生成できます。手軽に作業できるので、社員が月末にまとめて作業することがなくなり、分散するのもメリットです。

新型コロナウイルスの影響で大ブレイクしたクラウドサービスといえばビデオ会議サービスです。電話と異なり、PCやスマートフォンに搭載されているカメラを利用し、複数人が顔を見ながら会話できるのが特徴です。

同じ場所に集らなくても会議ができるので、テレワークには必須のサービスです。それでなくても、移動する必要がない、というのは大きなメリットになります。交通費の節約だけでなく、移動時間の節約にもなるのです。

場所に縛られず、移動時間を考慮する必要もないため、対面の会議よりも素早く開催できます。その分、ビジネススピードも上がるので、生産性が高まります。

通常であれば顔を合わせることの少ない遠い拠点のメンバーとも気軽にコミュニケーションできるので、社内の風通しがよくなるというメリットもあります。そのため、会議室を用意する必要がなくなるどころか、テレワークに移行してオフィスを縮小する企業も出てきました。

対面が当たり前、というイメージのある営業にもクラウドサービスの波が押し寄せています。例えば、名刺管理サービスです。従来、顧客と交換した名刺は営業担当がファイリングし、鍵のかかった引き出しやキャビネットで保管していました。連絡先が必要になったら膨大な名刺をめくって探し、外出先で必要になったら会社に電話して誰かに探してもらっていたのです。これも、クラウドサービスにすることで、いつでもどこからでも検索し、アクセスできるようになります。さらに、社内共有もできるので、社員同士で人脈を紹介しあったり、重複して営業連絡をするトラブルを防止できます。

ビデオ会議機能を利用して、商談そのものもクラウドで行うサービスもニーズが高まっています。新型コロナウイルスの影響で直接顔を合わせたくないという状況にマッチし、顧客側もオンライン商談サービスを抵抗なく受入れてくれているからです。営業側も移動に関わるコストと時間がなくなるというのは、とても大きなメリットになります。

資料を渡すのも簡単だし、商談メモを取れるので詳細な情報共有が可能です。さらに、営業側はプレゼン資料に加え、自分で作ったカンペも見ることができます。相手には表示されないので、カンペを見ながらクオリティの高いプレゼンができるのです。これもクラウドならではのメリットと言えるでしょう。

従来はExcelをいじくり倒して行っていた業務も、専門のクラウドサービスを利用すると格段に素早く処理できるようになります。人事なら勤怠や労務、給与をはじめ、評価や採用、モチベーション管理まで、様々なクラウドサービスが登場しています。予算管理や原価管理、在庫管理、請求書発行なども、それぞれ複数の企業がサービスを提供しています。最近は、テレワークを導入する企業のために、クラウドでオフィスを再現するようなサービスも登場しています。

さらには、企業課題を解決するべく、新しいクラウドサービスが日々ローンチされています。数が多くて群雄割拠ではありますが、その分、自社にマッチしたクラウドサービスもきっと見つかることでしょう。

クラウドサービスは社員に活用してもらってはじめて効果が出る

ここまで、クラウドサービスの素晴らしさをお伝えしましたが、導入に失敗する企業もあります。いくつか、典型的な失敗するパターンを紹介するので、同じ轍を踏まないようにしてください。

まず、自社にマッチしていないクラウドサービスを導入すると、当然のように失敗します。偶然話を聞いた営業担当1人だけの意見を丸呑みして、拙速に手を出すのは避けた方がよいでしょう。ほとんどの課題に対し、複数のサービスがあります。きちんと比較し、自社にマッチしたクラウドサービスを選ぶ必要があります。

経営陣が課題を解決するべくクラウドサービスを導入しても、社員が使わなければ効果は出ません。もっとも多く耳にする失敗事例が、この社員が使ってもらえず、効果が出なかったというケースです。

社員はすでに頑張って働いているので、業務フローが変わるのは負担に感じます。ここでも、現状維持バイアスが発生するのです。上から押し付ければ押し付けるほど、今までExcelでやっていた作業を他の画面でやるのは嫌だ!と拒否反応が起こるのです。

上意下達ではなくボトムアップでクラウドサービスの導入を成功させた事例は多いのですが、部署ごとに異なるクラウドサービスを導入しまくってしまい、管理が煩雑になり、かえって社内の活用が進まないとか、コストが跳ね上がるということもあります。

クラウドサービスは、自社で構築するのと比べるとはるかに安く済みます。しかし、単体では望む効果が得られず、オプションやプラグイン、カスタマイズなどが必要になることが多いでしょう。業務によってはサポートも欲しくなるかもしれません。予算を決めるときは、トータルコストを把握するようにしてください。安易に最低金額で稟議を通して契約し、オプションの追加ができずに、活用できず失敗した企業があります。

逆を言えば、自社の課題にマッチするクラウドサービスを選び、社員に納得して活用してもらい、全社で利用するサービスを絞り、適切な予算を確保すれば、導入が成功する確率は高まるということです。

クラウドサービスの導入に成功した企業は、社員に活用してもらうためにいろいろな施策を行っています。例えば、福利厚生の申請に使うと、自分のメリットのために利用する人が増えます。もちろん、徹底的にクラウドを導入する目的を社員に知ってもらうことも重要です。社員のデジタルリテラシーによっては勉強会やセミナーを行う必要もあるでしょう。最初からすべての業務を置き換えるのではなく、一部の業務から徐々に浸透させていき、成功した企業もあります。

クラウドサービスを活用すればコスト削減や業務効率改善を実現できる

今やあらゆる課題を解決するためのサービスがあります。自社の悩みにマッチするクラウドサービスを導入し、コストを削減したり、業務効率を改善しましょう。

とは言え、契約すれば即改善、というわけではありません。導入プランを立てて、経営陣から現場の社員まで、クラウドサービスを活用するという意識を持つ必要があります。あれもこれもと同時に手を出すのではなく、ひとつずつ導入していきましょう。

そして、クラウドサービスの導入に一度失敗したからと言って、クラウドサービス全体を諦めないでください。今後、中小企業はもちろん、大手企業にもクラウドサービスの導入が進んでいくことは間違いありません。この流れに逆行すると、結局コストや業務効率の面で差を付けられて、厳しい戦いになってしまいます。

クラウドサービスに関する正しい知識を身につけ、クラウドサービスの導入を成功させましょう。

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