テレワークによるコミュニケーション密度の低下を解消するソリューションが続々登場

(IT・ビジネスライター:柳谷智宣)

2021.6.15

テレワーク中に笑顔でオンラインミーティングをしている女性

コロナ禍におけるテレワークは急速に広がっています。強制的にテレワークに移行せざるを得なかった企業も多いのですが、それでもDX(デジタルトランスフォーメーション)の促進に繋がるので、このまま進んで欲しいところです。

テレワークのメリットはとても大きいはずです。都市部での満員電車出勤は苦行ですが、自宅で作業できればストレスも減るうえ、時間を効率的に利用できます。企業側はオフィスを縮小したり、様々な経費がかからなくなるのでコスト削減が可能です。テレワークに問題なく移行でき、コロナ禍が過ぎてもこのままのスタイルを続けるという企業も出てきています。

一方、緊急事態宣言が出たのでテレワークにしてみたが、どうしても業務効率が落ちて生産性が低下するという企業も出てきました。

だからと言って、コロナ禍以前のように全員強制出社に戻すのも現実的ではありません。様々な人たちがこの課題解決にチャレンジしており、そこで分かってきたのが「コミュニケーション」というキーワードです。生産性が落ちる一因として、テレワークではコミュニケーション密度が低下するからではないか、と考えられるようになってきました。

そこで今回は、コロナ禍のテレワークにおけるコミュニケーション密度の低下という問題とその改善策について解説します。

テレワークでは雑談ができないために生産性が低下する!?

自宅で寂しそうにテレワークを行う男性

パソナ総合研究所が2020年12月に発表した「コロナ後の働き方に関する調査」(注1)の結果によると、コロナ禍において出社時と比べた在宅勤務時のパフォーマンスが「低下した」という回答が、「向上した」回答を上回りました。

テレワークでは通勤時間がなくなる、という圧倒的なメリットがあるのですが、他にも様々なアンケートでも業務効率が向上するという意見より、下がったという結果の方が多く見られます。

筆者は、この1年間、テレワークにチャレンジする企業向けのウェブサービスを多数取材してきました。テレワークに関連する既存のサービスはここぞとばかりに普及に力を入れ、新興サービスも多数登場しています。

そんな中、注目を集めているのがテレワーク時のコミュニケーションに関するソリューションです。テレワークでは、オフィスに出社している時と比べて、コミュニケーションが不足しているため、あらゆる業務に影響が出ているというのです。とはいえ、メールも電話も社内システムもあるし、最近はビジネスチャットサービスも普及しています。うちはコミュニケーション取れているけどなぁ、と感じる人も多いのではないでしょうか。

笑顔でオンラインミーティングを行う女性

サイボウズが行った「テレワークのコミュニケーション」についての調査(2020年11月調査)(注2)によると、コミュニケーションツールはメールがトップで、2位が電話でした。続いて、ウェブ会議とチャット、グループウェアとなります。ここまでは想像通りです。

ところが、驚きの結果になったのが「職場の人とコミュニケーションをとる時間」です。「業務に関わるもの」が1日あたり30分未満という人が6割、「業務に直接関わらないもの」は「0分」という人が4割もいました。つまり、仕事の話でさえ30分以下、雑談はほぼゼロという人が多いということです。

テレワーク下でのコミュニケーションのしやすさに関しては、若い人ほど「しにくい」と回答する人が増えています。「業務で関わりのある職場の人」との関係性の変化としては、「何をしているかがわかりにくくなった」や「話さない人が増えた」が6割を超えました。「意見・提案(アドバイス)をしにくくなった」や「協力し合うことが減った」は4割超え、「距離を感じるようになった」や「自分がどう映っているかが不安になった」も4割近くいます。

「雑談」は無駄ではなかったのです。人と楽しい会話をするのはストレスを抑え、幸福度を高めます。暗い気分で仕事をするより、明るい気分で取り組んだ方がパフォーマンスが向上するのは理解できるでしょう。

職場で笑顔で会話する社員たち

何気ない会話から、お互いの情報がわかります。もし、悩んでいる人がいたら、すぐに気がつくこともできます。早めにケアできれば、離職率を低下させられるかもしれません。お互いが抱えている仕事を知ることはとてもいいことです。何気ない話から、発想の転換が生まれ、新しいアイディアが出ることもあります。細かい情報共有が、自然な根回しになっていた面もあるでしょう。

オフィスで他人の会話が耳に入ってしまうことから、価値のあるカジュアルなコミュニケーションが始まることもあります。例えば、「○○の資料どこにありますか?」とAさんがBさんに質問しているのを耳にしたCさんが「Dさんが持っているよ」と答えてくれるかもしれません。部下がクレームの電話で困っていたら、「後で上司から連絡すると言っていいよ」と書いたメモを見せて助けてあげたりできます。

会話しているときの顔色や声音はとても多くの情報を含んでいます。本当に理解しているのか、納得しているのか、別のことを言いたそうなのか、などが何となく分かります。これらもリアルなコミュニケーションのメリットでしょう。

テレワークになると、これらが一気になくなってしまうのです。もちろん、電話をして相談することもできます。しかし、ものすごくハードルが高いので、相当深刻な状況にならないと電話をかけたりはしないことでしょう。猫の話をするのに、わざわざウェブ会議を設定するのも面倒です。

結局、雑談やカジュアルなコミュニケーションは業務とは関係ないということでスルーされ、必要最低限のやりとりに終始してしまい、結果的に生産性が低下する一因となっているのです。

注1パソナ総合研究所 全年代の在宅勤務経験者1,000名に聞く『コロナ後の働き方に関する調査』結果を発表(https://www.pasonagroup.co.jp/news/tabid312.html?itemid=3680&dispmid=821)より

注2サイボウズチームワーク総研「テレワークの職場内コミュニケーションに関する調査」(https://teamwork.cybozu.co.jp/blog/telework-communication.html)より

既存サービスや仮想オフィスサービスを活用してコミュニケーションの密度を上げる

コミュニケーションを活発化させ、密度を向上させる方法はいくつかあります。利用中のサービスを工夫して使うほか、既存サービスを活用したり、新たに登場した専用サービスを使う手があります。ここでは、便利なサービスや活用法をご紹介しましょう。

ビジネスチャットでは雑談スレッドと絵文字&スタンプを活用する

ビジネスチャットで絵文字やスタンプを活用する様子

ビジネスのコミュニケーションでも雑談が重要だということがわかれば、後は課題を解決するだけです。簡単なのは、利用しているビジネスチャットの中に「雑談」スレッドを作ることです。その中では、気軽に会話できるようにルール化します。ただ作っただけでは誰も利用しないので、ある程度役職の上の人間が旗振り役になって、積極的に投稿するようにしましょう。それを見てやっと部下達は、雑談していいんだ、という雰囲気を感じ取ります。

「Yammer」や「Slack」などのビジネスチャットには絵文字やスタンプが用意されていることがあります。これは、コミュニケーションを活発化させるために搭載しています。業務と関係ないのに、カスタム絵文字を作れる高度な機能を開発しているのはカジュアルにコミュニケーションできるようにするためなのです。乱用は困りますが、ある程度は絵文字やスタンプを積極的に活用していきましょう。

IPトランシーバーでオフィスにいるように会話する

「TLK100」(モトローラ社)などのIPトランシーバーをカジュアルなコミュニケーションに活用しようと打ち出している企業もあります。IPトランシーバーはLTEや5Gといった携帯通信網を利用する無線機です。電話をかけるのとは異なり、トランシーバーに話しかければ、同時に他のすべてのトランシーバーに音声が届きます。災害時でも利用できるので、BCP対策としても注目を集めています。

ネット上に作った仮想オフィスにみんなで集って仕事をする

仮想オフィスのイメージ図。会議室、デスク、人物などがイラストで記載されている

そして、テレワークの課題を正面から解決しようとしているのが「Remotty」(ソニックガーデン社)や「Remo」(Remo.co)などの「仮想オフィス」サービスです。社員は仕事を始める際に、この仮想オフィスサービスにログインします。ユーザーの一覧が表示されるので、一緒に働いている感じがします。

サービスによってUIは大きく異なるのですが、例えば、オフィスのフロアマップを表示するタイプでは、好きな席を選んで着席し、仕事をします。フロアマップで同じ部屋を指定したユーザー同士は音声や動画でコミュニケーションできます。他の部屋にいるユーザーには聞こえません。このあたりは、リアルのオフィスと同じですね。

定期的にPCカメラでユーザーの顔を撮影するサービスもあります。雰囲気が出ますし、顔が見えると安心します。その代わり、ちゃんと働いているか監視されている、と感じる人もいるようです。

音声や動画が繋がりっぱなしだと作業に集中できない、というのであれば、テキストコミュニケーションを中心としたサービスもあります。ユーザー同士がチャットで会話するのですが、その内容は同時に全体のチャットにも表示されます。これが、オフィスで自然と耳に入ってくる話し声の代わりになるというわけです。

このような気軽なツールだと雑談が捗るという意見もあります。例えば、ビジネスチャットだと「雑談」スレッドとは言え、くだらないことや間違ったことを発言してしまった場合、書き込みがずっと残ってしまうので何となく怖いと思う人がいるのです。しかし、仮想オフィスサービスは情報をストックすることが目的ではないので、気軽にコミュニケーションの密度を上げることができます。

既存ツールの活用から着手してコミュニケーションの密度を向上させる

新たなツールを導入したり、いきなり雑談をするように言われても、最初は違和感があるかもしれません。しかし、テレワークを進めなければならない以上、コミュニケーションの課題は避けて通れません。生産性を向上させる効果も期待できるので、まずは既存ツールの活用でもいいので、気軽に雑談できるような雰囲気や文化を醸成することをはじめましょう。

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