HHKBとビールがコラボした「HHK BEER」!?
冗談のような企画を本気で実現した経緯とは

(IT・ビジネスライター:柳谷智宣)

2021.10.19

2019年12月10日、高性能コンパクトキーボード「Happy Hacking Keyboard(HHKB)」シリーズの新モデルが発表されました。この時、PFUダイレクトでの限定発売が決まり、実際に触れて試せるタッチ&トライスポットが東京・大阪・名古屋にできました。この中で、唯一の飲食店として選ばれたのが、筆者が経営する「原価BAR」です。

店内には「HHKB」の各モデルを展示し、お客さまが触れられるようになっています。漆塗りの特別製「HHKB Professional HG JAPAN」も飾ってあり、HHKBファンに喜ばれています。

もう一つ原価BARでご用意しているのが、オリジナルビール「HHK BEER」です。「HHKB」がデザインされたラベルが目を引く瓶ビールで、キーボードの色にあわせた白と黒のイメージです。今回はこの「HHK BEER」が生まれた経緯をご紹介します。

「HHKB」のコラボビール「HHK BEER」の白と黒。
漆塗りの特別製「HHKB Professional HG JAPAN」も、神棚のように飾っています。

HHKB新モデルの発表会から遡ること半年、「原価BAR」がタッチ&トライスポットに選ばれたと聞いて驚きました。私は昔ながらのHHKBファンですが、BARとしてはまだ創業10年も経っていない中小企業です。しかも、全国チェーンのように多店舗展開しているのであれば量販店の代わりも務められますが、わずか40席のうちが!?と感じたことは覚えています。

もちろん、お話をいただけたことはとても嬉しいことです。どんな風にお客さまに触っていただけるか、などを会議する中で、コラボビールを作ったら面白いのではないか、と話が出ました。

その名も「HHK BEER」。「HHKB」と「BEER」の「B」をくっつけて、「HHK BEER」が面白い、とアイディアを出してくれたのが、PFU現広報戦略室長の松本秀樹さんです。IT企業と飲食店、キーボードとビールという異色の組み合わせの提案をいただき、わくわくしました。

確かに、筆者はお酒を飲みながら文章を書くことが多々あります。ビールを飲みながらHHKBで文章を入力していると、普段の仕事原稿とは違う感じになり、筆が捗りました。これが、自分の店で、しかも「HHKB」のビールを出せるなんて夢のようです。

松本さんにどんな風に企画を思いついたのか改めて尋ねたところ、「正直ノリです」と笑って答えてくれました。

「HHKB ユーザーミートアップ vol.3」(2019年)の様子。
左側にいるのが松本さん、右側が筆者です。

「キーボードという嗜好品と、カジュアルなビールがコラボしたラベルのお酒を飲みながらタイピングするなんて、面白いなと感じました」と松本さん。

ビール作りの提携先に関しては筆者が選定することになりました。原価BARでは長年様々なビールを扱ってきましたし、筆者もビール好きなので色々と飲んでいます。どこにお願いするか探す際には、やはり「HHKB」のことを考えました。

「HHKB」はプログラマー向けに誕生した合理的なキーボードですが、キーボード上段のFnキー列がなかったり、英語配列タイプに至っては単独のカーソルキーさえない個性的な形状になっています。コンパクトさと同時に、静電容量無接点方式によるしっとりとした打ち心地にこだわり、筆者がライターとして10年間使い続けて、9,500万回タイピングしましたが、一切故障しないという耐久性も職人魂が垣間見えます。

クラフトマンシップが光る「HHKB」の名を冠するのであれば、やはりクラフトビールがふさわしいでしょう。メジャーなビールカンパニーのビールもとても手頃で美味しいですが、ここはやはり少々高くてもこだわり抜いて造っている方がイメージに合います。

同じ理由で、ビールのタイプもエールにしました。日本で飲まれているビールの多くはラガータイプです。下面発酵で造られる、のどごしさわやかなビールです。エールタイプは上面発酵で造られ、フルーティーでコクのあるビールができあがります。「HHKB」と同様、個性が強いのが特徴です。

そこでコンタクトを取ったのがサンクトガーレンさんでした。原価BARでもサンクトガーレンさんの商品は多数販売させてもらいました。定番商品はもちろん、季節ものも人気でした。神奈川県厚木市に醸造所を持っており、多彩なビールを造っています。昔はビールの醸造所を立ち上げる制限が厳しく、なんとアメリカで造って、逆輸入して販売していました。その後、法律が変わって小規模のビール醸造が認められ、1997年に日本に戻ってきたのです。2003年春からサンクトガーレンとしてビールを造り始めました。サンクトガーレンさんのビールはあちこちの品評会で受賞し、話題になっています。

サンクトガーレンさんのウェブサイトです。ビールを購入することも可能です。

オリジナルラベルのビールをお願いできそうだ、ということになり、話が進んでいきます。まずは、どんなビールにするかを決めなければなりません。ゴールデンエールにするかアンバーエールにするかブラウンポーターにするか悩みどころです。

ここでも松本さんのノリと勢いは続きます。「HHKB」と同じ、白と黒の2パターンを作ることになったのです。筆者は最低製造本数や賞味期限のことが頭をよぎったのですが、こういうことは哲学と情熱が大事です。「HHKB」のカラーである白と墨にちなんだコラボビールができれば、それは格好いいでしょう。

コンセプトから考えれば、小麦を原料とした白ビールと原料の麦芽を焙煎した黒ビールかもしれませんが、やはり決め手は味。PFUでサンクトガーレンさんの商品をまとめて取り寄せ、試飲をしました。そこで決定したのが、白が「ゴールデンエール」、黒が「ブラウンポーター」でした。

「ブラウンポーター」は強く焦がした大麦が原料で、濃いブラウン色をしています。チョコレートのような風味があり、心地よい苦味が感じられ、とても飲み応えのあるビールです。イメージもHHKBのカラーである「墨」にぴったりです。

「ゴールデンエール」は白ビールではありません。代表取締役の岩本さんが「このビールが造りたくて、ビール造りをはじめました」というビールです。フラッグシップでもあり、最長のロングセラー商品でもあります。そこで、黒と対比するイメージで、この「ゴールデンエール」にしたのです。

「HHKB」のカラーである白と墨にちなんだ「HHK BEER」。
白が「ゴールデンエール」、黒が「ブラウンポーター」です。

ビールのラベルはPFUのWebデザインを担当しているデザイナーの宮内さんが作ってくれました。キーボードのロゴとは異なるフォントで、ちょっとクラシカルな雰囲気です。白と黒は色違いだけでなく、デザインもまったく異なります。「HHKB」も写っているのですが、ぱっと見ではIT機器とのコラボビールとはわからない、お洒落なデザインになりました。

「HHK BEER」のラベルデザインです。

せっかくなので、グラスを置くコースターも作りました。こちらは、歴代のHHKBをデザインしたもので、たくさん種類があります。リピートして飲んでいただけるお客さまにランダムにお渡しすれば、コレクションする楽しみもあると考えたのです。QRコードも付いており、スマホで読み込むとちょっとした購入特典がもらえるようになっています。ここら辺は、IT企業っぽいアイディアと言えます。

「HHK BEER」のデビューは2019年12月10日、新「HHKB」の発表会です。参加したメディアの皆さんには白と黒をお土産にお持ち帰りいただきました。続いて、ユーザーミートアップでは懇親会でふるまわれ、たくさんの方に飲んでいただきました。皆さんに美味しいと喜んでいただき、こちらも嬉しかったです。

「HHKB ユーザーミートアップ vol.3」(2019年)の様子。
今だからこそ、対面することの大切さを再認識できますね…。

その日から、多数のお客さまが原価BARを訪れ、「HHK BEER」を飲みながら、新「HHKB」を触るという光景が見られるようになりました。「HHKB」の打ちやすさを先輩プログラマーが後輩に語っていたり、若い女性が「会社で見たことがある~」と話しているのを耳にすると自分事のように嬉しかったです。お酒は飲まないが触らせて欲しい、という方もいらっしゃって、飲食店としてはどうかと思いましたが、同志と思い、入っていただいたこともあります。

飲み会でビジネスを語っていると、突拍子もないアイディアが出てくるものです。その時は楽しいですが、翌日になれば忘れてしまうことがほとんど。しかし、PFUのような企業が、そんな楽しいアイディアを実現させるというのには驚きました。

「HHK BEER」が完成したのは発表会の直前で、実際に手に取った時は感動しました。もちろん中身は過去に飲んだことのある「ゴールデンエール」と「ブラウンポーター」なのですが、味わいも格別に感じました(笑)

「HHKB ユーザーミートアップ vol.3」(2019年)でふるまわれた「HHK BEER」です。

年が明けたら「HHKB」のリアルイベントをやろうと企画していたところ、コロナ禍に突入しました。しばらく我慢しようと延期していたのですが、あれよあれよと1年以上経ってしまいました。まだ原価BARでは「HHKB」イベントはできていません。

実はそれどころか、コロナ禍の影響で原価BAR五反田と原価BAR銀座はクローズすることになりました。その代わりにJR田町/浅草線三田駅近くに、原価BAR三田本店をオープンしました。もちろん、タッチ&トライスポットとして「HHKB」に触れていただけるように、準備は万全です。漆塗りの「HHKB」も神棚のように飾ってあります。もちろんHHK BEERも取り揃えています。

HHKBタッチ&トライスポット:原価BAR三田本店(https://genkabar.jp/
住所:東京都港区芝5-23-6
電話番号:03-6879-0313

原価BAR三田本店でも「HHKB」を展示しており、ご自由に触っていただけます。

「HHK BEER」を飲みながら、「HHKB」のリアルイベントを開催できることを夢見ながら、コロナ禍が少しでも早く収まることを期待します。

  • QRコードは(株)デンソーウェーブの登録商標です。

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