スキャン技術で次世代のリサイクル環境を創造
~未来スキャン 第2回~

2021.9.28

未来スキャンのロゴとPFU本江雅信(中央)、田畑登(右)

デジタル化が進展するなか、「Society 5.0(超スマート社会)」に象徴されるように、これからは社会の情報をデジタル化して得られるデータを分析・活用することで“未来”が描き出されていきます。そのような中で、PFUが研究開発するスキャニング技術や認識技術は、企業や社会が抱える課題をどう解決していけるのでしょうか。種々の課題解決に取り組むPFUの担当者が、最新テクノロジーと“未来”の可能性、そして研究開発に懸ける想いをシリーズで語ります。

環境意識がグローバルに高まる中、大きな課題の1つが資源の再利用を通じた循環サイクルの確立です。そのための資源ゴミの回収は早くから取り組まれてきましたが、少子高齢化が他国に先んじて進む日本では、手作業に頼るゴミの分別作業が負担になってきており、作業の自動化が急務です。この課題に対応するのが、PFUが現在開発を進める「資源ゴミAI自動選別機」です。

今回は、「資源ゴミAI自動選別機」の開発を担当してきた田畑登(コンピュータプロダクト事業本部)と本江雅信(ドキュメントイメージング事業本部)に、現状や、これからについて『DIGITAL X(デジタルクロス)』編集長の志度 昌宏 氏が聞きました。

PFU本江 雅信と田畑 登、DIGITAL X(デジタルクロス)編集長 志度 昌宏 氏

PFU本江 雅信(中央)と田畑 登(右)、
DIGITAL X(デジタルクロス)編集長 志度 昌宏 氏

SDGsへの関心の高まりで再び脚光を浴びる資源ゴミ回収

――2030年までのSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の達成に向けて、これまでの“使い捨て”消費から、いわゆる3R(Reduce、Reuse、Recycle)への取り組みを通じた環境負荷の抑制がグローバルで強く求められるようになりました。そこでの柱になる活動の1つが、資源の循環サイクルの確立であり、資源ゴミは、その大きな対象の1つです。
ただ資源ゴミのリサイクルは決して新しい取り組みではなく、私たちも普段、各自治体の決まりに沿ってゴミを分別しています。資源ゴミの回収において現状、どのような課題があるのでしょうか。

本江おっしゃるとおり、資源ゴミの回収は古くて新しい課題です。日本における資源ゴミの分別回収では、自治体ごとに分別の程度に差があり、実は回収した段階では十分に分別されているとは言えないのが実情です。例えば、選別工場に集められた空き缶やビンは、空き缶なら鉄やアルミなどの素材別に、ビンであれば色別に、再利用のためには、さらに細かく選別する必要があるのです。

こうした選別工場は全国に3000カ所ほどあります。しかし、その作業工程を見ると、ベルトコンベア上を流れるゴミを人が手作業で仕分けているケースが大半です。米国やカナダ、シンガポールやベトナムなど、我々が調査した海外の工場でも、それぞれで分別の程度は異なるものの、選別工場での作業が人手頼りであることに変わりはありません。

その選別作業の自動化を図るためにPFUが開発を進めているのが「資源ゴミAI自動選別機」です。

資源ゴミを自動で分類するための3つの要件

――ネット上の動画などで手作業で選別している場面を見たことがあります。状況は、どの国でも大きく変わらないのですね。人手による選別をコンピューターを使って自動化するためには、何をしなければならないのでしょう。
本江選別作業の自動化では、ベルトコンベア上を流れてくる資源ゴミに対し、次の3つの要件を満たす必要があります。

要件1:流れてくるゴミの中から資源ゴミを的確に発見すること
要件2:発見した資源ゴミを素材ごとの基準で分類すること
要件3:基準に従って対象の資源ゴミを物理的に移動させること

単に資源ゴミを見つけるだけでなく、素材別に分類し、それぞれを所定の場所に移すまでを一連の流れとして完結させなければなりません。ベルトコンベアを止める訳にもいかないので、その速度に合わせた処理速度も不可欠です。

PFU 本江 雅信

PFU 本江 雅信

スキャナー開発で得た画像認識のノウハウを生かす

――ビンやペットボトル、はがされたプラスチックラベルなどに風を当てて、重さの違いから選別するという物理的な仕組みを見たことがありますが、AI(人工知能)技術を使った自動選別では、どのような技術を使っているのでしょう。
本江資源ゴミAI自動選別機は3つの要素で構成されています(図1)。1つは、ベルトコンベア上を流れるゴミを撮影する「カメラシステム」。次がペットボトルとガラスビンの違いを認識し、そこから次工程のピッキングの指示を出す「ゴミ認識AI搭載ロボットコントローラ」。そしてコントローラからの指示を受けて資源ゴミをピッキングする「ピッキングロボット」です。

カメラとAI搭載のコントローラが連携して資源ゴミを発見・分類し、AI搭載コントローラの指示を受けてピッキングロボットが対象の資源ゴミをベルトコンベアから取り出します。

図1:PFUが開発を進める「資源ゴミAI自動選別機」を構成する3つの要素

図1:PFUが開発を進める「資源ゴミAI自動選別機」を構成する3つの要素

――前回、PFUの顔認証付きカードリーダー「Caora(カオラ)」についてお話をうかがいました(関連記事 https://journal.pfu.fujitsu.com/00132/)。そこでは、カメラ画像をAI技術やOCR(光学式文字認識)技術などと組み合わせて本人確認を実現していました。資源ゴミの自動選別にも、同様の技術が生かされているわけですね。
本江PFUは長年のスキャナー開発を通じて、画像処理領域の技術を蓄積してきました。それらを生かさない手はありません。画像処理と一口で言っても、我々であれば、より適切な画像を得るための前処理などを通じてAI技術による認識精度を高められると自負しています。

鮮明な画像を得るための照明技術、OCR精度を上げるための画像処理技術、スキャナーのセンサーやモーター制御で培った機構制御技術を転用したロボット制御の技術といった我々の強みを、資源ゴミAI自動選別機に集約しているのです。

得意の写真撮影技術と画像の前処理技術で認識を容易に

――資源ゴミAI自動選別機では現在、選別対象の資源ゴミをガラスビンやペットボトルにしていますね。これらを画像認識する際の難しさは、どこにありますか。
本江最も重要なのは、ビンをビンとして認識できるかどうかです。物体の認識には今回、深層学習(ディープラーニング)を適用しています。そのため、判定ロジックは確定できませんが、形状や模様、色などの情報から、ガラスビン“らしさ”やペットボトル“らしさ”を判別していると推察しています。

いずれにしても対象物の輪郭が鮮明に捉えられていることが条件になります。ですが、ビンもペットボトルも、光が反射したり、逆に透過したりしてしまうため、認識精度を高めるのが難しいのです(図2)。

図2:ガラスビン・ペットボトルの透過・影・反射を比較した写真

図2:光の透過や影、反射によりガラスビンとペットボトルを見分けるのは難しい

本江そこで工夫したのが、より鮮明な画像を得るための撮影技術、なかでも照明の使い方です。いずれも当社のスキャナー製品の開発で培ってきたコア技術です。

具体的には、より画像から得られる情報を増やすために、フラッシュ光など照明の条件を変えながら複数回撮影します。そうして得た画像それぞれから特徴点を抽出し、深層学習で認識処理しているのです。

――Caoraでもうかがいましたが、正しい画像を得るための照明技術が生きていますね。AI活用では画像認識は主戦場の1つですが、カメラや望遠鏡のレンズなどの開発会社のトップの方が、「画像認識が上手くいかないと言っているケースのほとんどは光の当て方、照明の問題だ」と話されていたのを思い出しました。こうした照明や画像の前処理などにより、認識率はどのくらいまで高まっているのでしょうか。
本江ガラスビンを色別に仕分ける場合だと、認識率は開発当初の95%が98~99%にまで高まっています。

認識のアイデアとして、添付されているラベルの画像や文字を認識するという手もあります。しかし、ラベルは種類が多様で更新サイクルが早く、これを認識するのは筋が悪いと考えています。そのため我々は、主に形状や色で認識する方法を採用しています。

誤ったピックアップは逆に工場の作業負荷を増やしてしまう

――認識率が99%あれば実用化も近いのでしょうか?
田畑いえ、そう簡単な話ではないのです。選別工場に集まるビン類も、そのすべてがリサイクルの対象というわけではありません。耐熱ガラス製のビンや、薬品系、化粧品系のビンなどは除外されます。中身(残滓)が残っているビンも、そのままではリサイクルに回せません。

これら対象外のビンを誤って1つでもピックアップして仕分けてしまうと、その1つを取り除くために、仕分けたビンを再度、作業員が手作業で取り除くことになります。工場の操業に大きな手間とコストを与えてしまいます。某自治体の選別工場でPoC(概念検証)を実施したのですが、そこでは「間違って仕分けるくらいなら、選別しないほうがよい」とも言われました。

PFU 田畑 登

PFU 田畑 登

本江リサイクル対象の資源ゴミだけを確実にピックアップできるよう、選別工場の協力を得ながら認識機能の学習を続けていますが、深層学習で判断できないものは無理にピックアップせず、作業員に頼るというアプローチを採っています。

もちろんゴミの量を考えると、認識率は限りなく100%に高めていかねばなりません。そのため、前回のPoCで表出した課題を克服した新しいエンジンを使い、再度、認識率の評価を行っています。

――認識率を高めることに加え、コンベア上を流れる対象物を確実にピックアップするにはロボット部分にも工夫を凝らす必要がありますね。
本江ピッキングロボットのアーム部品は既製品を購入していますが、制御技術などを自社で開発しています。今回の仕組みでは、ベルトコンベアに渡した支持レールをアームが左右に動き、先端の吸引器で対象のビンを吸い付けてピックアップしています。吸引器を当てる位置は、画像認識したタイミングで、輪郭データから中心点と、立体としての高さを算出して決めています。

ロボットハンドには、吸引型のほか、つかむタイプや挟むタイプなどもあり、それらも試す価値はあると思っています。ただPFUは、照明技術や認識技術では他社に負けない技術力と知見があると自負していますが、ロボットアームなどの分野では共創が不可欠だと考えています。

資源ゴミAI自動選別機をいち早く事業につなげるために、当社の画像認識や認識技術を核に最終製品としてまとめ上げていただける機械メーカー様を全力で探しているところです。

画像認識技術による小型化と低価格化で新市場を開拓

――今さらながらですが、照明技術や画像認識技術の蓄積があったとはいえ、PFUが、なぜ資源ゴミの自動選別機なのでしょう。従来の製品群からみれば全く共通点がないようにみえます。
田畑開発の発端は事業開発統括部が実施したアイデアソンです。ご指摘のように、全く新しい事業領域を見いだすのが目的でした。その際に設定されたテーマが「SDGsへの貢献」で、5つほどの候補から最終的に資源ゴミAI自動選別機が選定されました。評価ポイントは、国内で少子高齢化が進む中、ゴミの選別作業を自動化できなければ、人手不足により既存の資源循環サイクルが破綻しかねない状況を改善できる点でした。

――市場との接点もほとんどなかったでしょうから、かなり苦労されたのではないでしょうか。
本江それはもう(笑)。特に立ち上げ期はしんどかったですね。前任社長の直轄として組織を横断する形で多様な技術者が集まっていましたが、初期の担当者は私を含めた2人だけでしたし、スキルセットも圧倒的に足りませんでした。人も予算もないにもかかわらず、試作機の評価期限だけは着実に迫ってくるばかりでした。

それでも、画像取得の鍵になる照明技術などについては、社内で、その道のプロに頼み込み、工作レベルの評価機を見てもらってダメ出しを受けながら改良を重ねていきました。

一旦、形になって社内評価もクリアすると興味を持ってくれる人も増え、予算も付くようになりました。そこからは開発全体が上手く回り出しました。ただ事業化に向けては、当社には従来にない製品だけに、事業構造や競合先も当然分からず、今も手探りの状況です。

2021年3月に、出来上がったばかりの試作機を環境展に出展したところ、社外から想像以上の評価・反響を得られました。某自治体の選別工場でのPoCのお話を頂いたのを機に、問い合わせもグンと増えました。PoCでは課題は残しましたが、選別工場のみなさんには大変に喜んでもらえ、嬉しかったです。そこから他の自治体に紹介して頂けるなど、実証を含め具体的な話が広がり始めています。

また、このたび石川県の「デジタル化技術開発支援事業」にも採択されました。これは石川県内産業のデジタル化をさらに推進することを目的とした事業で、製品開発等に石川県産業創出支援機構からの支援を受けられることになりました。

――ところで、資源ゴミの回収が古くからのテーマだったように、選別工場には既に自動選別機といったものが導入されているのではないでしょうか。ただ一方で、先ほど物理的な選別方法を挙げたように、機械メーカー発だと想像されます。やはり画像認識といったソフトウェア技術の活用は進んでいないのでしょうか。
本江市場には自動選別機は少ないながら存在します。ただ、ご想像のように、各種センサーを用いて機械的に選別する大型かつ高価な機械装置がほとんどです。また工事現場から出る廃材など、木材やプラスチック、金属片などが入り混じった資源ゴミの選別を想定します。

それに対して当社の資源ゴミAI自動選別機は、家庭ゴミの選別工場において、人の作業を代替する“協働型”ロボットの位置付けです。現在の作業スペースに追加して使うことを想定しています。例えば、5人の作業者がいたスペースに資源ゴミAI自動選別機を取り付けゴミの8割を選別機で処理し、選別機が処理できない部分は1人の作業員がフォローするといった使い方が可能です。

画像認識というソフトウェア技術を使うことで、物理的な機構を簡略化できるため、ベルトコンベアにも少しの改修で取り付けられるほど小型になっています。機構がシンプルなので価格も桁が違うほど安価に抑え、人件費換算で十分に回収できる価格帯を目指しています。

アイデアソンの段階から、既存環境への導入のしやすさは強く意識していました。「ゴミを選別できるゴミ箱」といったアイデアもありました。そんな製品があれば、置くだけでリサイクルが進められます。

次世代に環境を引き継ぐため、あらゆる素材への対応を目指す

――SDGsやゼロエミッションなどへの取り組みが事業継続上不可避になってきたことから、国内でも、大手不動産会社などが、複数のビルや地域近隣を巻き込みながらコミュニティ単位での循環型モデルを構築しようとする動きも始まっています。いわゆる社会課題解決型ベンチャーなども増えており、そうした企業との共創も、製品の進化につながりそうですね。
田畑既存メーカーでも、新興企業と組んでAI技術を使った選別に動き始めています。ただ、機械とAIの連携やAIのチューニングなどではうまく進んでいないとも聞きます。その点、PFUの画像認識技術などは自社開発ですし、ハードウェアの製造ノウハウもあります。そうした点を生かしながら、先ほども申し上げたようなロボット系企業などとの共創の輪を広げていきたいと考えています。

加えて、製品開発だけでなく、顧客開拓に向けた共創にも期待しています。資源ゴミAI自動選別機の営業は、これからが本番であり当社にとって新たな挑戦です。ビジネスを軌道に乗せるためには、照明技術や画像認識技術を切り出して部品としての販売も考えられますし、選別工場やプラントへの販売では、廃棄物の認証や安全・保障の対応など、当社では対応し切れない領域における経験とノウハウを持つパートナー開拓を推し進めているところです。

――循環型社会の実現に向けた取り組みは今後、間違いなく高まっていくでしょう。企業にとっては、ボランティア的な活動ではなく、そこに取り組んでいなければ市場に参加できないほどに、責務も負うことになるでしょう。PFUとしては、このモノの識別という技術を今後、どのように育て、どのような領域に展開したいと考えますか。
田畑すでに食品メーカーからは工場の害虫対策として利用したいという相談を受けています。工場では、害虫がどこで発生しているかを把握するための装置が配備されているそうなのですが、より精緻なカメラ画像と画像認識を使って害虫の種類や数まで把握したいとのことです。

ほかにも、透明な袋に入った食品の検品や、果物や魚といった農水産物の仕分けなどへの応用も考えられます。特に後者は、人手不足の中で人員確保が難しく、力仕事でもあるため、協働型ロボットは現場に大きく貢献できるはずです。

色々な方と話していると、「そんな使い方もあるのか」と逆に勉強させていただくばかりです。

本江資源ゴミAI自動選別機として最終的に目指すのは、あらゆる素材への対応です。すでにアメリカでは、プラスチックのPP(ポリプロピレン)とPE(ポリエチレン)など細かな選別が始まっています。田畑が説明したような取り組みで収益を確保しながら、より細かなニーズへの対応とグローバル展開により、より良い環境を次世代に引き継ぐための技術開発に取り組んでいきたいと思います。

対談を終えた志度氏と田畑、本江

対談を終えた志度氏と田畑、本江

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